第8回 我が国における食品の品質衛生管理のすがた
2014.11.15
J・FSD㈱ 池亀公和
我が国の食品衛生事情については、国民性はもとより国の指導そしてコンビニエンスストアーや大型量販店の衛生指導も大きく影響し今日のように世界的に見ても安心安全な食品の提供が受けられる環境ができてきたといえる。しかしながらその反面、生産者や加工業者と消費者の間には大きな距離ができ、消費者は今食べている食品が何からできていてどのように作られているのかがわからないままになっていることも現状ではないだろうか。
その結果、一部のメーカーや販売会社による偽装などが発覚するたびに消費者との距離はますます離れ、不信感に代わっていっていることも事実として考えられる。
農林水産省による消費者モニターによるデータでは、「輸入農産物・輸入原材料の安全」についての不安は91.4%にもなっており、「製造加工工程での安全性」については74.3%が不安を感じている。また、どのような食品に対して不安を感じているかを聞いたところ「外国産生鮮野菜」と回答する人が最も多く72.2%、次いで「原材料が外国産の加工食品」47.0%、「外国産精肉」44.4%となっている。
年代別にみると、どの年代も6割から7割の人が1位に「外国産生鮮野菜」を挙げている。2位をみると20、30、40代は「外国産精肉」を挙げており、50代、60歳以上は「原材料が外国産の加工食品」を挙げている。
以上のような消費者意識の中、食品メーカー関係者の食の安心安全に対する活動はますます高まっており、消費者についても食の安心安全に対する知識はますます豊富になっているようだ。
私は昨年から一般財団法人食品産業センターの依頼で各地の消費者に対するHACCPシステムの啓蒙を目的としたセミナーを行っているが、そこに参加している消費者については驚くほどの知識を有しており、出てくる質問もかなり専門的である。もちろん参加者の多くが特に食品の安全安心に関心の高い人たちであることを考えると当たり前であるかもしれないが、消費者の食の安心安全に対する知識が豊富になっていることは事実であろう。
やはり農林水産省の消費者モニターのデータでは、食品のトレーサビリティについて、どのぐらい知っているか聞いたところ、「だいたいのことは、知っている」と回答する人が最も多く36.2%、次いで「ことばを聞いたことがある程度」24.1%、「知らなかった」33.7%となっている。
年代別にみると、「よく知っている」、「だいたいのことは、知っている」と回答する人は、60歳以上に最も多く、それぞれ7.4%、46.3%、「ことばを聞いたことがある程度」は30代に多く29.1%、「知らなかった」は、40代に多く40.7%となっている。
食品メーカーにとってこれらの結果を踏まえ、食品の衛生品質管理体制をどのように持っていくべきなのかを考えると、その一つは消費者に対する自社の積極的な衛生管理体制や手法のアピールおよびコミュニケーションが必要であることがうかがえる。
どこかの化粧品会社のように品質管理を中心にアピールするには、工場設備などそのハード面でのコストを考えると、多くの食品メーカーにとってはなかなか難しいところがある。ところが、ISO22000やFSSC22000認証取得が先進国の中でもトップである我が国においては、「製造加工工程での安全性」については74.3%が不安を感じていることを考えると、多くの知識を持った消費者との距離を少しでもなくし信頼関係を回復することはこれからの我が国の食文化にも大きな影響を与えると考えられる。世界に信頼されている我が国の和食文化が自国でも自信をもって信頼される日が来ることを望まない人はいないだろう。